2024年11月14日 掲載
事務局長 生安 衛
今年も残すところ2カ月を切りました。来年の1月17日には、当時、観測史上初の震度7を記録した阪神・淡路大震災から30年を迎えようとしています。
今年の能登半島地震を含め、1995(平成17)年以降、震度7の地震はこれまでに計7回を数えます。およそ4年に1度のペースにあります。
阪神・淡路大震災以降、日本列島は地震の活動期に入ったと言われています。
8月8日の宮崎県南部の地震で、気象庁が「南海トラフ巨大地震の注意情報」を初めて発表しました。南海トラフ巨大地震の発生を懸念しています。
兵庫県は2014年に南海トラフ巨大地震の被害想定を発表しています。最悪の場合、県内で約3万近くの方が死亡され、津波によるものが96%を占めるとされています。
このことから、甚大な被害を及ぼす津波に対する防災意識は重要であり、自分自身の意識を高めるために、11月の上旬の連休や年休を活用して、岩手県陸前高田市の東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」などに行ってまいりました。
11月5日は、世界津波の日です。世界津波の日は、日本をはじめとする142か国が一緒に提案したもので、2015年に国連総会本会議で制定されました。津波の脅威について世界中で関心が高まり、世界共通の課題であることから採択されたものです。
津波に関する意識向上と対策強化、そして、津波に対して準備するグローバル文化の推進を目指しています。
具体的な内容としては、①11月5日を「世界津波の日」として制定すること、➁「より良い復興」を通じた災害への備えと迅速な情報共有の重要性を世界の人々が認識すること、③すべての加盟国、組織、個人に対して、津波に関する意識を向上するために、適切な方法で、世界津波の日の遵守を要請することなどが含まれています。
また、この日が選ばれた理由は、1854(安政元)年11月5日の安政南海大震災で起きた大津波の際に、当時、和歌山県の広村(現在の広川町)で、濱口梧陵という人物が自らの収穫した稲むらに火をつけることで早期に警報を発し、避難させたことにより村民の命を救い、被災地のより良い復興に尽力した「稲むらの火」の逸話にちなんでいます。
我が国においては、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による甚大な津波被害を踏まえ、2011(平成23)年6月に制定された「津波対策の推進に関する法律」で、広く津波対策についての理解と関心を深めることを目的として、毎年11月5日を「津波防災の日」と定め、全国で様々な活動や教育に取り組んでいます。
(津波の脅威)
津波は、発生率が高いとは言えないものの、最も破壊的な自然災害の一つであると考えています。しかしながら、津波は沿岸であればどこでも起こる可能性があります。兵庫県であれば、瀬戸内海や日本海での海岸線を選ばないでしょう。
特に海抜が低く、人口密度の高い沿岸の都市は、津波を含む沿岸災害に極めて脆弱であり、災害により多くの人命の被害や多大な経済的損失に見舞われます。
2011(平成23)年3月11日、三陸沖を震源として発生した東日本大震災)は、国内観測史上最大規模のマグニチュード9.0を記録し、日本全体が揺れました。
とりわけ、巨大津波が岩手県沖から茨城県沖までの太平洋沿岸の広い範囲に押し寄せました。集落や市街地が壊滅的な被害を受けるとともに、東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生するなど、甚大な被害を受けました。死者・行方不明者は2万2,000人以上、住家の全半壊は40万棟以上という未曽有の複合的大災害となりました。
(東日本大震災の復興のシンボル「奇跡の一本松」)
東日本大震災から13年以上の月日が流れ、未曽有の災害から立ち直るため、被災地では急ピッチで復興事業が進められてきたことを確認できます。
そして、東日本大震災の記憶と教訓を次世代に伝承するために、様々な震災遺構が残っています。
このなかに、岩手県陸前高田市の高田松原津波復興祈念公園内に「奇跡の一本松」があります。約7万本の松の中で唯一残り、鎮魂・希望・復興のシンボルになったことを以前聞いたことがあり、かねてから拝見したいと思っていました。
実際には、想定していたものよりも高くて、力強い松でした。高さは27.5メートル、幹の直径は約90センチメートルあるようです。東日本大震災の津波発災時の樹齢は173年で、高田松原を形成する他の松よりも一段と大きな松であったと記されていました。この松が津波被害に襲われながらも、踏ん張って、生き残ってきたことに感銘を受けました。この松の生きながらえるという生命力の強さが奇跡を起こしたものと感じました。
高田松原津波復興祈念公園は、基本理念として、「奇跡の一本松が残った場所で犠牲者への追悼と鎮魂の思いとともに、震災の教訓とそこからの復興の姿を高田松原の再生と合わせ未来に伝えていく」と掲載されていました。
奇跡の一本松が東日本大震災の鎮魂、復興や祈りの軸となり、この公園設立のコンセプトになったものと思われます。
(東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」)
高田松原津波復興祈念公園内で、「東日本大震災津波伝承館」が2019(令和元)年9月22日に開館しました。展示面積は1155平方メートル。愛称として「いわてTSUNAMIメモリアル」が名づけられています。
テーマは「命を守り、海と大地と共に生きる~二度と東日本大震災津波の悲しみを繰り返さないために~」で、強い決意を感じます。
この館は、4つのゾーンに分かれます。ゾーン1(歴史をひもとく)では、三陸地方における津波の歴史から、自然とともに暮らすということを考えられます。ゾーン2(事実を知る)では、巨大津波で被災した気仙大橋の一部・破損した消防車などの展示、写真や被災者の声、記録などで当時の事実を知ることができます。ゾーン3(教訓を学ぶ)では、逃げる、助ける、支えるなど、津波の時の人々の行動をひもとくことで、命を守るための教訓が学ぶことができました。ゾーン4(復興を共に進める)では、津波を乗り越えて前へと進んでいく被災地の状況が紹介されています。
東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」
https://iwate-tsunami-memorial.jp/
(「てんでんこ」の言い伝え)
ゾーン3での教訓の一つに吸い寄せられました。岩手県の三陸沿岸には、「津波のときはてんでんこ」という教えがあるそうです。津波が来たら、周りを気にせず、てんでんばらばらに、それぞれで高台に逃げなさいという意味です。
この言葉には、「命を守るために何がなんでも逃げろ」「必ず生き残れ」という強い想いが込められているように感じました。そして、自分の命は自分で守るという自助の精神の重要性を改めて認識させていただきました。
現在の高田松原津波復興祈念公園から臨まれる広田湾の沖近くに出てみました。今も波の音が大きく感じられ、津波に吞み込まれるような錯覚に陥りました。
海とともに生きてきた地域で、大きな津波により被害にあい、多くの方々が犠牲になるという悲劇が繰り返された中から生まれた、命を守るための強いメッセージが込められた言葉だと感じました。
改めて、私たちも自助の意識を高めていくことが重要だと思います。
(津波避難に備えること)
今回、東日本大震災津波伝承館などで、津波の脅威を確認し、津波に備えることの大切さを学びました。私たちはどのように行動したらよいのかを提案したいと思います。
一つには、皆様の地域の避難場所・避難所を確認することから始めましょう。避難する場所としては避難場所と避難所がありますが、東日本大震災の津波時において、避難場所と避難所が明確に区別されておらず、そのことが被害拡大の一因になったと聞きました。
また、避難場所と避難所が同じものと考えている方がおられますが、目的や避難時でのタイミングなどが異なることを認識しましょう。
「避難場所」は災害が差し迫っている時に緊急避難する場所、「避難所」は災害の危険がなくなるまで滞在したり、帰宅できなくなった方が一時的に滞在する施設とされています。
各地域には避難場所・避難所等を示す標識がありますので、注意深く近隣地域を歩いて、確認してみましょう。また、各市町のホームページには一覧などで住所等が掲示されていますので、自宅や職場などの近隣の避難場所・避難所を調べてみましょう。
二つには、災害時に安全な行動をとるには、身近な場所でどのような災害が起きるのかを知る必要があります。まずは自宅近くのハザードマップを「わがまちハザードマップ」で確認しましょう。ハザードマップは各市町のホームページや窓口で確認できます。
加えて、国土交通省・国土地理院が公開しているハザードマップポータルサイトからは、地域のハザードマップを閲覧する「わがまちハザードマップ」や、津波、洪水、土砂災害が同時に起きたらどうなるかを確認できる「重ねるハザードマップ」にアクセスできますので、ぜひ活用願います。
ハザードマップポータルサイト https://disaportal.gsi.go.jp/
三つには、各市町によっては年に数回、様々な災害を想定した防災訓練が開催されています。日本赤十字社兵庫県支部でも地域赤十字奉仕団などにおいて防災教育・防災訓練を実施しています。もし機会があれば、これらの防災訓練等に参加してみましょう。
四つには、普段から生活している地域のことを知り、近隣の方々と顔見知りになることで、
災害発災時の協力体制をつくっておくことが極めて重要です。
災害の危険がある時に、避難する決意を固めるのに有効だと言われている手段に、近隣のひとからの避難の呼びかけがあると言われています。さきほど述べました、世界津波の日の原点となった「稲むらの火」の逸話からも共助の力の大切さが伺われます。
このように、一人一人の行動が自分の命だけでなく、周りの人の命を救うことにもつながることを改めて認識したいと思います。